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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)1659号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人岩本栄太郎、同森時太、同岩本清太、同松居正生四名の弁護人田原昇及被告人服部豊の弁護人水上孝正の上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通りである。

被告人岩本栄太郎、同森時太、同岩本清太、同松居正生四名の弁護人田原昇の上告趣意について。

所論嘉村勲は本件第一審における相被告人ではなく、従って第一審第一回公判調書中には同人の供述がないこと及原判決において「原審第一回公判調書中各被告人及原審相被告人嘉村勲、池田正、山田重治の各供述として夫々関係部分に付判示同趣旨の記載」と記載していることは所論の通りである。記録を調べて見るに本件第一審相被告人池田正、同山田重治と共に右嘉村勲は原審証人として供述しているので原審においては右嘉村勲もまた一審相被告人であったと誤解した結果右池田、山田の第一審公判における供述を証拠に採用するに当りあやまって右嘉村の氏名を書入れたものと認めることができる。右のように架空の証拠を挙げたことはまことに軽率な処置であって原判決の証拠説明は瑕疵があるとのそしりをまぬかれないものであるが、誤記であること明らかであって全然存在しないものであるから原審の心証に影響を及ぼす筈なく従って判決にも影響を及ぼす虞は全然ないものであるから破棄の理由となすに足りないものである。なお論旨後段において被告人等を取調べた警察官が強制して自白せしめたことを主張するのであるが、警察官聴取書は証拠に採用しておらないしまた公判廷における被告人等の供述が強制によるものと認むべき何等の証跡も認められないから、論旨は採用しがたい。

被告人服部豊の弁護人水上孝正の上告趣意第一点について。

原判決は警察官聴取書を証拠に挙げておらないし、仮に警察官に対する被告人の供述が強制によるものであったとしても原審公判廷における供述が強制によるものであることは認められないから、論旨は採用しがたい。

同第二点について。

原判決挙示の証拠により判示事実を認めることができるのであって、所論の如く判決に理由を付さざる違法はない。論旨は結局原審の事実誤認を主張とすることに帰し採用するを得ない。

よって刑訴施行法第二条、旧刑訴第四四六条により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保)

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